「からけ」

中津川から塩尻に向かう車中。


一人の男の子が、一眼レフ片手に車内を歩いていた。
近くに座っていたおばあさんが、席が空いたから、とその子を座らせる。
それがきっかけで、そのおばあさんとその子、そのボックスにいた20代後半と思しきカップルの4人の話が盛り上がり始めた。


何の気なしに聞こえてきたその話から、その子が小6であって、一人で関西から旅をしてきて、今日の目的は神奈川県のとある街であることが分かった。


すると、隣のボックスに座っていた、これまた20代と思しきおっさんが、その話に加わった。
そこまでは、旅の車中での、旅人同士のふれあい。だと思っていた。


その20代オッサンは鉄ヲタだった。
次第に声が大きくなる。
小6の子が関西から来たと聞くと、「自分は四国から来ている。北海道もいい。そうだ、今度は北海道に行きなよ」といい、
家族構成を聞き出して「今度は兄弟みんなで旅をするといいよ」といい、
中央線の古い寂れた駅舎を見ては「東海道線は全部駅前にバス停とコンビニがあるから、こんな駅はない」といい、
カップルの女性がトイレに行きたい、トイレはあるかとカップル男性に聞くと横から割り込んで「こんな中距離列車なんだからトイレがあるに決まってますよwww」といい、
カップルの年齢やら関係やらを聞き出し、
小6の子がホテルに泊まっていたと聞くと「大阪のユースホステルは安いし、旅仲間と仲良くなれる。今度はそこに泊まるといい」という。
挙句の果てにカップルやおばあさん、そして向かいのボックスに座っていた青年二人の家族構成やら出発地、行先、きっぷなんかを尋ねだした。
彼の声のトーンが上がるたびに、車中のほかのグループの声は小さくなり、最後には彼らしかしゃべっていないような状況になった。


自分は別のボックスに座っていたので関係なかったけれど。


旅の途中で、旅をしているもの同士のふれあい。
それを否定する気はない。
でも、そのふれあいで情報交換することはあっても、自分の旅の経験を押し付けたり、勧めたり、必要以上に相手の情報を聞き出したり、そもそも、そのふれあいそのものを押し付けるような行為に、僕は嫌悪感しか感じなかった。


旅人は、各人が各人それぞれの旅を持っている。
その旅を尊重して、その旅を称えあうのが、旅のふれあい。
それ以上話を聞くのはヤボってものだと思うが。。。