ジャズの思い出

ジャズは大好きだったけれど、今はそんなに好きじゃない。ブラスの響きも、最近ようやく、再び聴けるようになった。


中学・高校と、部活でラッパを吹いていた。
部活は楽しかった。吹奏楽も、ジャズもいやっていうほど吹いた。吹いてるだけで楽しかった。もちろん思い出すだけでムカムカと腹の立つ思い出もたくさんある。
大学の吹奏楽は3ヶ月で辞めた。金賞常連の大学だったけど、先輩はみんな、自分で考えて演奏をしない、ただ指揮者の言いなりになっている『ふりをして適当に吹いている』ロボットだった。


大学の吹奏楽を辞めた僕を、あるバンマスが誘ってくれた。高校時代、部活にジャズを教えにきていた卒業生のオヤジ。社会人ジャズバンドを持っていて、そこのラッパ吹きに、と誘ってくれた。
ジャズは楽しかった。自分の親以上の年代のオヤジ達と演奏する。世代が違うのに話が合う。技術はないが、とにかく楽しんで演奏する。それが楽しかった。


そのバンドに、ラッパ吹きの女性がいた。きれいというか、可愛いというか。ラッパは始めたばかりで下手だった。いろいろと教えたりしながら、仲良くなった。僕より10歳も上だと知ったのは、ずいぶん後のことだったけど。

なんとなく、近所の仲のいいアネキ、って感じだった。
博多の一件で悩んで、相談に乗ってもらっているうちに好きになって、本気で口説いて、付き合い始めた。
2ヶ月で別れた。彼女は「友達に戻ろう」と言ったけれど、1ヶ月もしないうちに、彼女に婚約者がいる、という話を耳にした。僕はバンドを辞めた。誰にも理由を言わなかったけれど、高校時代からの友人がバンドにいて、彼は全てを知っていて、全てをバンドのみんなにぶちまけた。
彼女は激怒した。彼女だけじゃない、バンドメンバーの半数が激怒した。激怒した連中はみんな、彼女を一度や二度口説いてた連中。バンマスもその中にいた。妻も子供もいるクセに。バンドメンバーはみんな人間不信に陥って、バンドは空中分解した。僕と彼女は、お互いになじりあって、最低最悪の別れ方をした。


僕の知ったこっちゃない。ただ、一番人間不信に陥ったのは、この僕だったろう。この日を境に、ジャズを聞くと気分が悪くなった。トランペットを触ることも出来なくなった。音楽そのものが嫌いになってしまった。病院には行かなかったけれど、きっとなんか精神的な病気だったのかもしれない。
ふつうに音楽を聴けるようになったのは、つい最近のこと。ジャズのリズムも、ごくごく稀に、まだ時々不快感を思い出すけれど、最近は普通に乗れるようには回復した。


治ったのは、チャンベビいきものがかりを始めとするミュージシャンたちのおかげかな。
心から楽しそうな顔で、音楽をパフォーマンスしているミュージシャンのおかげじゃないかな。
「音楽って楽しいよ!」って顔で、体で表現して、楽しい音楽を聴かせてくれた人たちのおかげじゃないかな。
楽しそうに演奏している姿を見ると、こちらも楽しくなる。知らず知らずのうちに、楽しんで音楽を聴けたのは、こういう人たちのおかげだと思う。