歴史は繰り返す。しかし、繰り返してはならない。

6月19日。フランスのサルテ・サーキットでアウディが爆音を響かせていたころ、アメリカのインディアナポリスは大きく揺れていた。
F1、アメリカGPで、出走20台中、ミシュランタイヤを履いた14台がスターティング・グリッドにつかずにリタイヤ。観客は怒り、コースに物を投げ込んだ。FIAミシュランを強く非難した。
そして、今日。ミシュランは、アメリカGPの観客に入場券を払い戻す、という発表を余儀なくさせられた。


以下、Yahooニュース より部分的に転載

 ポールポジション(PP)のトゥルーリトヨタ)は、険しい表情で「レースを続ければ危険なのは分かっていた」と話した。17日のフリー走行トヨタラルフ・シューマッハーら事故が多発。ミシュランはタイヤに負担がかかるオーバルのバンクで「安全性を保証できない」と異例の通達を出しFIAに規定の例外となるタイヤ交換を要請した。
 これが却下されると、各チームはスピード抑制のシケイン(複合コーナー)設置を要求。公平性を欠くと主張するブリヂストン使用のフェラーリと対立し、決勝開始10分前まで協議が続いた。結局、これも却下され、7チームはペナルティーを避けるため出走したと判断される隊列走行後の棄権を選択した。
安全性優先とはいえファン無視といえる異例の事態。BARホンダのスタッフは観客に殴りかけられたという。


ミシュランのタイヤに欠陥があった。これに関しては、ミシュランが責めを負うべきだろう。
しかし。
FIAは、20年前の出来事をすっかり忘れてしまったのだろうか。


1980年代のWRC
時代はグループBが席捲していた。400馬力を超えるようなエンジンが普通の乗用車のボディの中に組み込まれ、車体よりも大きく見えるウイングが前後に取り付けられた、モンスターマシン。
1985年から、グループBマシンは速すぎるのでは?という議論が巻き上がっていた。相次ぐ重大事故。死者こそ出なかったものの、観客を巻き込む事故も数件起こっていた。
1986年のシーズン。フォードが観客をなぎ倒し、4人死亡。このラリーでは、全てのワークスがラリーを自主的に撤退した。原因は、主催者であるFIAが観客をコントロールできなかったこと。
そして、ヘンリ・トイボネンの死亡事故。これが決定打となり、FIAはグループBを廃止することになる。


FIAは、死者が出てからでないと、なにも議論をしない気なのだろうか。グループBの悲劇をすっかり忘れて、同じことを繰り返す気でいるのだろうか。
死者が出てからでは遅すぎる。たしかにミシュランの失敗であるとはいえ、そういう事態になってしまったのだから、安全をいかに保つべきかをFIAは考えなければならない。
グループBの時代、自動車メーカーは、レースに勝つことを目的に、強烈なモンスターマシンを作り上げたが、馬力アップに警鐘を鳴らし、歯止めを掛けようとする人間は誰もいなかった。そしてFIAもレース運営に手一杯で、観客や選手の安全確保は2の次だった。


今回は、ミシュランが責任をとった。ミシュランのミスとはいえ、ミシュランは危険を防ごうとしたという点で、評価できると考える。
FIAも、これで丸く収めるのだろう。しかし、もしこれでレースを強行し、事故が起こっていたとしたら、FIAはどのような責任をとるのだろうか。FIAは、あのグループBの悲劇から、何も学び取っていないように感じる。


僕らは、楽しいレースを見たい。安全なレースを見たい。
レースを見に行って、死にたくはない。目の前で、ひいきのドライバーが死ぬ瞬間を見たくはない。


そして、FIAフェラーリの間に噂される「きな臭い関係」も今に始まったことではない。グループBの時代から、プジョーフロントウイング問題、96年頃のスバルのフロントシールド破損に伴うペナルティなど、とにかく複雑であいまいで、一貫していない裁定は昔からあったわけで。
こういうところも、FIAには一掃してもらいたい。