心の狭さ

先日、いきつけの中華料理屋に入った。
餃子とチャーハン大盛のセットを注文し、水を一息に飲む。
後から、女性が店に入ってきて、ホイコーローの定食と餃子を注文していた。
数分後。彼女の元に、餃子とホイコーロー定食が運ばれていった。
それと同じくらいに、オジサンと家族連れがが店に入ってきた。オジサンは僕と同じ、餃子とチャーハン大盛を注文していた。家族連れもめいめいに注文をしていた。
僕は、「もしあのオジサンよりくるのが遅かったら、『なんで同じオーダーの人より時間掛かるんですか?まだ待たせるんなら、キャンセルでお願いします』とか言いたい放題言ってやろう」と頭のなかでぐるぐる考えていた。
数分後。オジサンのところに、餃子とチャーハンの大盛が運ばれていった。隣の家族連れにも、餃子が運ばれてきた。
僕は店員を呼んで、頭の中で考えていたとおりの台詞を吐いた。
店員は、何人かでオーダーの確認をすると、「あたしじゃないよ」「でも6番飛ばして7番が…」ともめた。そして、すいませんの一言も言わずに、帰ろうとして荷物を持ち立っている僕の鼻先に、「今上がりましたから」と餃子を突きつけた。
僕は「もういらねぇよ」と言い店を出ると、駅の反対側にある中華料理屋で、餃子とチャーハン、そして半ラーメンを食べた。


最近ストレスがたまっているらしい。クレームをつけ、言いたい放題いってすっきりすることばかり考えている。


昨日の帰り、いつもどおり、池袋から電車に乗った。
携帯を開き、仕事中に届いていた私用メールを確認していると、誰かが僕の肩をトントンと叩く。
振り返ると、見たこともないオジサンが立っていた。「優先席に近いからここでは電源を切って。」といいながら、胸ポケットから出してきたのはペースメーカー手帳。彼はペースメーカー使用者だった。
僕は、電源が入っていても電波を一切出さない「パーソナルモード」に切り替え、メール閲覧を続けた。彼が「もっとあっちに行って」といってきたので、僕は「電波が出ないように設定しましたので」と言った。そのままメール閲覧を続けようとしたが、これ以上文句言われるのも面白くないので携帯をしまった。
何回も、携帯を出してメールを見たい衝動に駆られた。オジサンになにか言われたら、「電波が出ない設定になっているんです、ご安心下さい」と言ってやろう。どんな顔をするだろう。
そんなことを考えているうちに、ある駅に着いた。
オジサンが降りる準備をしている。そして、僕の後ろを通り過ぎたとき、また肩をポンポンと叩いて、「悪かったね」と一言。


僕は泣きたくなった。
オジサンは、そのペースメーカーのせいで、電車の中でどれだけ怖い思いをしてきたことか。電波という見えない敵に。バッグの中に入った携帯という敵に。人々の好奇の視線に。そして、すぐキレルという若者たちの存在に。
そんな敵と戦って、オジサンは自らペースメーカー手帳を見せ、「頼むから電源を切ってくれ」と言っていたんだろう。
それに対し、自分。
自分のストレス発散がしたいばかりに。自分の知識と正当性をひけらかしたいばかりに。オジサンを悪者にしようとしてたんだ。
謝りたくても、もう遅い。


でも、いちいち電車の中で電源を切るのはめんどくさい。バッグの中に携帯を入れてるから、ラッシュでは基本的には手も届かないし。
だから、これからは、なるべく優先席付近には乗らないようにしよう、と決めた。
それが、オジサンに対する謝罪になるかな、と思いながら。