夏の思い出

その電車の中で、フルートバッグを持っている女の子がいて、ふと思い出した。


大学のときの話。
大学に入って、吹奏楽団に入ったはいいが、軍隊みたいな挨拶とか、合奏中に水飲んだりしてはいけない、とか*1先輩のいうことがいちいちバカバカしくて、入団直後から嫌気が差してきていた。
そして、6月の演奏会を前に、指揮者=音楽監督*2に、ポップス系の課題曲の、音符の処理*3をどうするのか直接質問したら、先輩が来て、「あんた、先生に何聞いたの?」と言ってくる。
「いや、音符の処理の仕方聞いただけですが」と返したら「そんなもの、先生が指示くれるんだから、言うとおりに吹けばいい。先輩差し置いて勝手に質問するな」と言われて、そのバンドを辞める決心がついた。


ロクでもないバンドだった。県大会の手伝い(荷物番とか、要するに雑用)に駆り出した一年は団員として数えず、自腹切って手伝いに行っても、入場チケットはおろか、プログラムすら貰えなかった。


次の日から、辞めることは誰にも言わずに、練習を欠席して自動車学校に通いつめた。
路上教習に移るころ、バンドの夏合宿があり、僕は一応出席して、一人の女の子に、バンドを辞めることをこっそりと打ち明けた。入団してすぐに来なくなってしまい、いろいろと話をしてようやく団に顔を出すようになった同級生だった。
きれいなSAXの先輩とか、他の先輩にも相談したりした記憶があるけど、ちゃんとした答えは得られなかった。
8月入ってすぐの練習に出て、音楽監督に退団の意思を伝えた。


8月の半ばだったと思う。
携帯がなった。
出てみると、ちょっと仲の良かった、パーカッションの女の子(すごく可愛くて、実はちょっと好きだった)と、音楽専攻のクラリネットの女の子が二人で話し掛けてきた。
1時間くらい、とにかくいろんな言葉で、慰留された。辞めないで欲しい、と何回も言われた。
辞めなかったら、パーカスの子と仲良くなれるかな…とか思いながらも、辞める気持ちは変わらなかった。


そして、団が東海大会を突破した翌日に、団員の前で、僕は退団の挨拶をした。


パーカスの子とか、トロンボーンの同級生とか、学内で会うたびに「戻って来い」としつこく言われて、苦しかった。
トロンボーンクラリネットも、僕よりずっと上手い連中が「オマエは上手なんだし伸びるから、戻って来い」と言われても、素直に喜べなかった。
でも、パーカスの子に会えるのはちょっと嬉しかった。


「戻って来い」が聞こえなくなるころ、パーカスの子と会っても、挨拶だけで終わってしまうことが多くなった。
いつしか、電話やメールも通じなくなった。


そんな、大学1年の夏休み、吹奏楽を辞めたときの思い出。


そんなことを思い出したのも、そのフルートバッグを持った女の子が、やはり大学の吹奏楽団の同級生だったフルートの女の子に、体型が似てたからだ。
Windowsソリティアで9500点とか10000点を取れる取れない、と競争して、家のパソコンで5時間くらい頑張ったこともあったっけ。
でも、その子よりも、パーカスの女の子に会いたい。


もし、ここを見てる人のなかに、僕のことを分かる人、特に大学時代の同級生がいたら。
連絡下さい。


あのころから10年ばかり、僕の携帯電話番号は変わってません。

*1:タンギング多い曲だと口の中がネバついてきて、どうしても水飲みたくなるんだよね

*2:一応、プロの指揮者…だったんだけど、数年後、団員へのわいせつ行為が発覚してクビになった

*3:ポップスなら音符は吹き切って音を止める。矩形のイメージ。吹奏楽、クラシックならアタックの後は音を弱めていく。ナイフみたいな三角形のイメージ。