装置屋が語る本当の話

年末になってちょっとばかり騒ぎが大きくなってきたのが、次世代のDVDってやつのお話。


Blu-ray(ブルーレイ)とHD DVDのどちらが規格争いを制するのか。
ちょっとしたマニアの間ではちょっとした話題。


で、装置屋が語るには「Blu-rayが完全勝利を収める日は近い」ということだそうで。

実は、CDもDVDもHD DVDBlu-rayもみんな共通点がある。
それは、直径12センチの円盤で、厚みが1.2mmってこと。(シングルCDとか、DVDカムに使われる8センチのは例外)


で、違いは何かっていうと、データを記録する凸凹が厚み1.2mmの中に埋め込まれているのだけれど、

  • 凸凹の大きさが、CDの大きさを1とするとDVDは約半分程度、HD DVDBlu-rayはさらにその半分程度。
  • 凸凹の位置が、CDはレーベル面から0.1mmのところにあり、DVDとHD DVDは0.6mmのところにあり、Blu-rayは1.1mmのところにある。

というわけで。


この共通点と違いが、HD DVDを破滅に追い込んでいっているのだと。


HD DVD陣営が積極的にコマーシャルしている話の一つに、「HD DVDはDVDと同じくらいのコストで作ることができますよ」というのがある。
「データを記録する凸凹はDVDと同じ0.6mmの深さにあるので、DVDを作る装置をちょっとイジれば作れますから」ということなんだそうな。
本当か?


答えは、ウソ。
DVDとHD DVD。確かに、凸凹の深さは同じ位置にある。でも、これがコストを下げる理由にはならないのだ。
もしこれがコストを下げる理由になるのなら。
CDとBlu-rayを比べてみると、裏表は逆だけど、どちらかのディスク表面から0.1mmの深さに凸凹がある、という点では変わらない。だから、もしHD DVD陣営の言う「構造が同じだから、装置を小改良して作れる」が正解なら、Blu-rayはCDを作る装置を小改良しただけで作ることが出来てしまう、ということになるのだ。
(しかも、従来の装置を改良して出来る、というのなら、確実に減価償却の終わってる/進んでるCDの生産設備を使うほうがイニシャルコストが安くなるに決まっている)


ところがこれが出来ないのだ。


凸凹の大きさは、HD DVDBlu-rayも、CDの1/4以下のサイズになっている。だから、CDとDVDは赤色レーザーで読み取ることが出来たが、次世代DVDは赤でも緑でも読み取れず、青色レーザーで読み取るようになっている。
で、凸凹のサイズが1/4になっているということは、ディスクそのものもそれだけ高精度に作らなきゃならないんだけど、どれだけ高精度に作らなきゃならないのか。
実は、DVDを作る装置は、CDを作る装置に比べて、10倍近い精度を要求されるのだ。例えば、ディスクはプラスチックで出来ているので、当然ごくごくわずかな反りやゆがみがあるのだけど、その許容範囲はCDの1/10程度と規格で決まっているのだ。
しかも、たとえ規格の範囲内であっても、ドライブとの相性によっては使えない場合が出てくる。従って、DVDはCDの20倍近い精度で作られている。


ということは。
次世代DVDを作る装置も、DVDを作る装置の10倍近い精度を要求されるのだ。
ところが、CDからDVDへの10倍の精度UPに比べて、次世代DVDへの10倍の精度アップは相当難しい技術なのだ。
凸凹のサイズが1/4になる。単純に書いているけれど、どれくらいかというと、余裕でナノの世界に突入している。そのナノサイズの凸凹を、CDの100倍の精度で作れ、という話なのだ。
そんな簡単に出来る話ではない。


ところが、HD DVD陣営では、「DVDの装置をちょっとイジれば作れますよ」なんて言っちゃったのだ。
だから、ソフト屋さんやプレス屋さんは「DVDの装置とそんな変わらん価格でHD DVDの装置を買うことができるのだ」と思っちゃったりしてる。
ところがどっこい。DVDを作る装置の100倍の精度を持つ装置が同じ値段で買えるわけがない。だから、ソフト屋さんとプレス屋さんは装置屋さんを責めたてる。「ボッタくってるんじゃないの?」って。
で、結局、装置屋さんはDVDを作る装置と同じような価格で、100倍の精度を持つHD DVDを作る装置を売る。当然、利益が出ない。
だから、装置屋さんがHD DVDを作る装置を作ろうとしなくなる。実際に、日本でも海外でも、廃業した会社が結構あったりする。


置屋さんがHD DVDを作る装置を作らない、となると、HD DVDがどんなによいものであっても、作れないのだから世に出回らない。HD DVDが木の実みたいに勝手に生えてでもこない限り、ね。
というわけで、HD DVD陣営の「生産コストが安い」という謳い文句は、結局HD DVD陣営の首を絞める方向にしか繋がらないのだ。


以上、次世代のDVDはBlu-rayが勝つ、という説の『一つの』根拠をお送りしました。
『一つの』ということは、ま、ぶっちゃけ他にもアレコレとあるんですが。その辺りは装置屋の知ったこっちゃないので。


世間ではいろんな情報が飛び交っていて、ディスクの構造とか容量とかという面からいろんな比較がされて、どちらが有利、なんて話がたくさんあるのだけど。
ま、映画とかが録画されて売られている「ROM」と、パソコンなんかのデータ保存用に使われる「+/-R」ではまた話が違ったりするので、なかなかややこしいことはあるんだけどね。


ディスクってのはそれだけじゃなくて、書き込む『ドライブ』も関わってくるし、ディスクを作る「装置」も関わってくるし、ディスクの中身であるソフトも関わってくる。
これらの情報をアレコレと全部集めて考えてみると、実はもう、どちらが勝つ、というのは見えているわけで。



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