思い出話。

今日は七夕。
七夕には、ちょっとした思い出がある。

中学校3年生の時だったとおもう。
勉強の出来ない女の子が、同じ班になった。
当時の評価基準で言えば、主要5教科のテストの合計点(満点は50点×5=250点)が、僕は200点以上、彼女は120点弱だった。
ただ、だからといって彼女を軽蔑とかしてたわけじゃない。その証拠?に、彼女とは、お互い軽口を叩く程度の、普通に話をするクラスメイトだった。
彼女の席は僕の後ろで、たまに授業で彼女が当てられそうになると、こっそりと答えを後ろに回したりしてたこともあったし、家庭科の時なんかは、裁縫でも料理でも腕を競いあって、楽しんでいた。


言い訳だけしておくと、その頃の僕は、単純に他人に興味がなかった。自分の点数があとどれくらい上がるか、だけを楽しんでいた節がある。ネクラだ。僕は学年トップではなかったけれど、トップを目指すことは一度もなかったし、トップにもならなかった。
それと同時に、僕はむちゃくちゃに大人ぶっていた。大人ぶっていた、というか、大人びていた、というか。
キャラクター物の文房具が大嫌いで、オヤジが仕事で使うような、かっちりとしたシャープペンなんかを使うのが好きだった。
季節の行事も、好きで参加するくせに冷めているというか。「七夕?織姫に彦星?んなのいるわけないでしょ。でも、昔の人にもロマンチックな話を思いつくのがいたんだね」みたいな。


そんな中3の七夕の日。授業で使うプリントが配られた。前から回ってきて、彼女に渡そうと振り向きざまに、ちらっと彼女のノートを覗きこむと。
彼女の可愛らしい字で、日付欄に「7月7日。七夕」と書かれていた。
なんか、その瞬間に僕は「落ちた」。
彼女の素直さに目からウロコが落ちた、というか、現実主義、大人ぶった仮面が落ちた、というか。季節の一節句、七夕を素直に楽しめる彼女が好きになった瞬間だと思う。
そして、そのときから、「勉強が出来るよりも、日常の一つ一つの出来事を楽しむ人生のほうが楽しいんじゃないかな」と思うようになった。


その彼女とは、修学旅行も一緒の班になり、奈良をあちこち歩き回った。けれども、班が別れると、あまり話しをすることもなくなった。
高校は、僕は地元で有名な進学校に行き、彼女は「1年の夏休みが終わるころには1クラス分の人が退学している」と言われていた女子高に進んだ。
1年の夏休み前に、一度だけ、町の図書館で彼女を見かけたけれど、話をすることはなかった。お互いにチラっと目を合わせただけだった。中学卒業が近い頃に、「彼女は僕のことが好きだ」という噂を聞いていたこともあって、声なんてかけられなかった。
もっとも、告白されてたとしても、僕の彼女に対する感情は、恋愛よりも友情に近かったし、その友情すらも班が別れて以降は薄れていたので、進展することはなかったのだろうけれど。


その後の彼女が、どのように生きているのかはわからない。あるいは地元の友人に聞けば分かるのかもしれないけれど、それをしようとも思わなかったし、思わない。
兄弟が多く、優しくて、家庭科がとても得意だった彼女のこと、今ごろはどこかでいいお母さん、いい奥さんになっているのだろうと思う。


今の僕の人生観の基本の基礎を作ったのが、その彼女。そして、それが、今から12年くらい前の七夕の日のことである。