引退

今日、研究室のパソコンサポートを引退した。
サポートったって、きちんとした係があるわけではない。
マシンに何らかのトラブルが起きたとき、一番詳しい俺が呼び出されて、その対処に当たってきただけの話。
俺より下の学年にはきちんとパソコン係ができたけれど、何の知識も持ち合わせていなかったので、結局俺の仕事だった。


最初は、研究室のマシンだけだった。そのうち、自分のマシンを研究室からネットに繋ぎたい、という人が増えてきた。論文すらもネットで読める時代、仕方ないので教授の指示のもと、ウイルス対策ソフトやファイアーウォールを個人のパソコンに入れるよう指導もした。チェックもした。
これだって、嫌がる教授をなだめすかしてOKを取ったのは、この俺だった。


徹夜で修理して、教授に怒られたこともあった。
個人のマシンにトラブルが出て、深夜でも日曜でも呼び出され、そいつの家まで直しに行った。卒論データにヒビでも入ったら、そいつの卒業が危うくなる。


昨日、そいつらが影で俺をバカにしているのを聞いた。いや、前から知っていたが、内緒話にしては大きい声で。


深夜にそいつの家に行き、感謝の言葉ひとつも言われずに。
日曜に呼び出され、ノートパソコンのデータ復旧を3時間でやってやったのはつい先週のことだ。


自分がやってきたことはなんだったのか。
ばかばかしい。
結局、使われてきただけか。
いや、いまさら気づいた俺もバカだけど。


今まで数十回もパソコンを分解してきた。
手になじんだ工具を、すべて後輩の机に押し込んだ。
「もう、今日からやらないから。」
いる間は手伝ってくださいよ〜、という後輩の言葉を無視して、
自分の机に戻った。


引退。華々しくも寂しい言葉。
俺の引退には、心の中に寂しさと虚しさだけが残る。