昨日の話

昨日、行きつけの時計屋に、Gショックの電池交換に行ったときのこと。
って書いた時点で「あれ?」って気づく人は鋭い。
普通、街の時計屋でGショックの電池交換はしてくれない。やった時点で防水保証がなくなるし、第一、店にそれだけの技術力がない、って場合が多い。
ここが行きつけのいいところ。どうせ保証もない逆輸入物だし、と訳を話さなくてもすぐに裏蓋を外してくれる。
もちろん技術力は完璧。今までに何本も機械式腕時計のオーバーホールを依頼して、すべて完璧。手に入らない部品は作れるだけの店。


そんな店に行って、電池交換はほんの数分で終了。
お金を払い、帰ろうとすると奥からごそごそと出してきたのは、年代物のアンティークな腕時計。
話を聞くと、30年前のスイス製をオーバーホールしたが機械がちょっとヤレていて売り物にならないので、卒業祝いにくれると言う。
そんな申し訳ない、と言ったが、主人は俺の手に鈍く光る腕時計を握らせた。


物をくれるから良い店、などと貧乏くさいことをいう気はない。
何も買わず、雑誌で読んだだけの付け焼刃な知識を持って時計を見に行った暇な学生に付き合って、いろんな本物の知識を与えてくれる店。
いろんな時計を俺に教えてくれた店。
そして、そんな客とそんな客の時計をとても大切に扱ってくれる店。
そんな店が近くにあるから、俺の引き出しには10本以上の腕時計、特に3本のアンティーク時計が並んでいるのである。


そして、自分より長い時間を過ごしてきた時計を眺めるごとに、時計に対して、そしてその時計を世に送り出す時計師たち、街の名もなきしかし技術を持つ時計屋を尊敬せずにはいられない。