第3章:自転車を買えず悩む

夏休み。
うちの会社の夏休みは毎年、7月末〜8月頭になることが多い。嫁の夏休みとは時期が合わず、一人で過ごす時間になる。


夏休み最初の平日、僕は家事を済ませると、通勤用軽快車にまたがって家を出た。
目指すは、家の近くなどでピックアップした、スポーツ車に強そうな自転車店数店。片っぱしから回ってみよう。僕の希望をかなえてくれる店、店員、自転車にめぐり逢ったら買おう。そう決めて自転車をこいだ。


真夏の日差しは、どんどん肌を黒くする。腕時計をしてなくても、腕時計があるように見えるほど焼けてしまった。
それだけ頑張ったサイクリングの成果は…なにもなかった。

ビギナー専門を謳うお店の店員は「わからないことがあったら聞いてくださいね」の一言だけ。あとから声を掛けてくれた店員さんに「初心者なのでどんなのを選んだらよいか」と聞いたら、並んでいるクロスバイクのメーカーの歴史を説明してくれた。
量販店は、クロスバイクを見ている客を認識していても、声すら掛けてくれない。
「どの車も試乗可能!200mの試乗コース有」を謳う量販店は、こちらが婉曲表現で「またがせてもらっていいですか?」と試乗を申し込んだら不機嫌そうに「またぐだけならいいですよ。」と、ホントにただまたがせてくれた。
スポーツ車に詳しいとある店の店員さんは、「クロスバイクに泥除けとカゴがつくかって?そもそも欧米にママチャリなんてないんです。だから欧米にはオプションのカゴがたくさんあるし、泥除け専業メーカーだってある。どの車種か決めてくれれば、なんだってできますよ!」と。その車種で悩んでるのだが…というところは通じず、「車種を決めてくれれば大丈夫です!」を繰り返されたうえに「今の時期、2019年モデルの出始めですから、よりどりみどりですからね!」。
街中のとある自転車屋さんは「練馬から浮間舟渡の通勤?クロスバイクにしても、結局漕ぐのは人。道のりを考えたらクロスバイクにしても楽にはならないですよ。環八走ってるんですか?あんな走りにくい道を?」。


真黒に日焼けして、肌がヒリついただけの3時間半・20kmのサイクリング。
家に帰り、水着を持ち出し、そのまま自転車で区民プールに直行し、肌と頭を冷やしながら考える。
夏休み中にクロスバイクを手に入れ、そのまま長距離サイクリングに出る、という夢は潰えた。
僕はクロスバイクを買うことができるんだろうか。自転車屋さんは、僕に自転車を売りたくないのだろうか。


夏休み明けも、ママチャリで頑張って通勤しよう。そう心に決めて、プールにもぐった。


(続く)